【無料公開】ダイビングに活かせる生態学的視点とは①

生物・生態

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私がこの様な話をさせていただくきっかけになったのは、生物学、特に海洋生物学者が潜れなくてどうするんだ、というところから始まりました。
大学で海洋生物を教えていて一番感じたのは人間もちゃんと物を見なければ海の生物の生態なんてわかるわけがないということです。
その時に一番良い手段がダイビングであると思います。

生物がたくさんいる空間に直接入って行って彼らの生活を見ることができる。
生活という動きを見ると、相互の関係、例えば岩と貝の関係や貝とそれを食べるタコの関係、そういった関係性そのものも見ることができ、時間経過の中でどの様な現象が起こりそうなのか、あるいは起こったのかを直接知る機会になります。

そういうチャンスがせっかくあるのだから、もっと水中生物の生態の観察に目を向けて欲しいとも感じています。

ダイビング自体を面白いと感じて始める方もいますし、珍しい生物を見たいと思うことも多いと思いますが、生涯活動として楽しむところまでなかなかいかないのは、ひとつは単に流行るだけでそこで物を見るという視点が少し弱いのかなとも思います。

お客様に生態学的な視点も含めて楽しんでいただくにはどうしたら良いのかを考えていきましょう。

ダイビングは陸上から水中の浅い所に入るわけですが、そこには全く違う環境が広がっています。
陸上の生活では見られない物を瞬時に体験できる、非常にダイナミックな変化が起こる場所です。

どうしても私たちは陸の延長で水の中を見ますが、水の中は陸上とは全く違う世界があり、その違いが何かを理解して物事を観察しましょう。

そこにいる生き物は偶然にいるわけではなく、過去に生物が遭遇した経験の結果です。
何年あるいは何時間そこに生きていたわけで、いきなり現れるわけではありません。
何らかの環境、あるいは生物同士の関係の結果なのです。

逆に言えば、そこにいる生き物が今どうしているかを見れば、過去はどうだったかも類推できます。
それは、その場所の自然と生物が共に生きてきた証で、共進化と言います。

生物同士がお互いに影響しながら、地形や波などの自然と関係を持ちながら共に進化してきた結果なんだという視点を持っていただければと思います。

今回はダイビングで使えるキーワードをご紹介します。
そのキーワードの中身について認知し、お客様に紹介していただけたらと思います。

まず初めにエコトーン(移行地帯)です。

例えば里山であれば林から水田に変わるところ、あるいは林が草原に変わるところ、陸上から海への移行地帯、環境が大きく変わるところをエコトーンと言います。

生態学的に見ると、こういう場所は独特の生物が棲んで独特の生態系が存在しています。

海岸は地球最大のエコトーンです。
水があり、大気と混ざり、太陽があり、そこには色々な生物が集まって来ます。

その場所に私たちは入れるわけですから、地球上の生態学的現象の集約の場所であるという視点で見てください。

次に、攪乱です。
時々、ものすごく大きなダメージを受けることで、地形が変わることもあります。

例えば洪水が起これば、川の位置まで変わることもあります。
今まで河口だった場所が陸になったり、逆に、掘れてしまって水深がある場所に変わったりします。

長い目で見れば海岸は大きな波が来たり、がけ崩れが起こったりして、頻繁に変わっています。

人間の時間感覚では頻繁とは感じないかもしれませんが、地質学的に見れば少なくとも数万年前は今の場所に海岸はなかったわけです。

そうした大きな変革を受けながら、そこに生物はなんとか対応して生きている、積極的に、と言えるかもしれません。

この攪乱という現象と共に生物が暮らしているという視点も持ってください。

生態学的な物も含め、生物を紹介するときに避けて通ることができないのが分類です。
生物を分けなくてはならない。

例えば魚、イカ、カニといったものでも良いのですが、大抵みなさん、種名まで言いますよね。

これは面倒かもしれませんが、最低限の分け方はしなくてはいけない。
その分類とは何かということで、よく使われる和名と学名について紹介します。

生物の分類は必ずしも種名によるものだけではなく、様々な分け方があります。
よく使われる物が、プランクトンやネクトン、ベントスという生態学的に、生活のしかたによって分けたものを紹介します。

その種が持っている特性を生態学的に見た時に、キーストーン種や基盤種という言い方をします。
よく保全生態学や生物の保護の現場で使われますので、そういった場所でお客様に生物を紹介するときに、この様な役割に入る様であれば、それも紹介していただければと思います。

応用的な物としては、その種の特性として、その生物を保全したり、保全という中には駆除も含まれ、例えば外来種は好ましくないとして駆除の対象になる。
では外来種とはなんなのか。

それからレッドデータブックはどういう意味で作られているのか。
画然としたレッドデータブックがあるわけではなく、各々が勝手に作ります。

日本の場合だと環境省が作った物がよく使われますが、学会がレッドデータブックを作ってしまうこともありますし、県や都などの各地方自治体が作ることもあります。

ではレッドデータブックとはなんなのかということも覚えていただければと思います。

生態学的な事象でどの様な言葉がよく使われるかもご紹介します。

生活の特性として生活史、食性といった言葉があります。

まとまりのある生物の集団の事を表すとき、よく使われるけれどもよく分からない言葉が生態系。
生態系とは何かと聞かれて解答できる人はほとんどいません。
しかし、どの様な概念で使われているかを理解していただければと思います。

ほかに群集、個体群、食物連鎖は分かる気がするかもしれませんね。
ほかに、生物多様性とは何か、よくよく考えると難しい概念です。

生物の間の関係では、寄生、共生、捕食。
少しわかりづらくなってくるのが競争。
もっとわからなくなってくるのがニッチ。

生態学的なニッチとは何か。
ニッチから見ると色々な現象がまた見えてきます。

これらの言葉を紹介させてもらいます。

これらのタームを自分自身で使いこなせるようになると、環境の紹介やガイドの面白さを増すためのツールとして使えるようになります。

これらを使って水中観察を学ぶことを楽しみ、エコロジカルな概念がお客様の遊びにとって意味の深い物にしていただければと思います。
できれば環境ビジネスとして、新しい分野ででお客様を集めるツールにしていただきたいと思います。

ダイビングがビジネスになってから4~50年が経っていると思いますが、本当の意味で自然観察のツールとして使いこなしているとは言えないと思います。

多くの方がリピーターにならなくなっている、1、2回潜った経験で満足してしまっている。

車の運転ができる様になって、ペーパードライバーで終わってしまうことがありますが、そうではなくて車を運転して何がわかるのか。
それと同じようにダイビングをしたら何がわかるのかというツールとして、この生態学的な考え方を使っていただければと思います。

ここの環境がどの様な歴史的な産物なのか、という辺りから自然観察は始まります。
特に海岸の成り立ちや歴史的背景を理解し、イントロダクションとして紹介していただければと思います。

常に生き物は環境と相互関係を持っています。
生き物が変われば環境も変わる、環境が変われば生き物も変わる。
生物はお互いに変わって行かなければいけない。

この生物がいるというのはこの環境にとってどうなのかと聞かれますが、そうではなく、生物と生物がいることによってその集団が成り立っている。
何が起きているのかを相互作用として理解していただきたいと思います。

生物間の相互作用がどの様に働いてきたのか、働いているのかを見ることが新たな発見と向上心に繋がると思います。

好奇心を持って生態学的に観察し分析する。
なぜこんなことが起きるか、どうしてこの生物は生きていられるのか、どうやって暮らしているんだろう。
ちょうど人間に対する好奇心と同じように。

例えば彼氏彼女ができたとき、この人は何を考えているんだろう、何を食べているんだろう、そういう好奇心が芽生えますよね。
それと同じ様なことを自然の中でも考えていただきたい。

そして、生態系がどう成り立ってきたのか、どうしてこんなことが目の前で起きているのか、分析していただいたい。

次の課題としては、その好奇心を地域の環境保全のエネルギーに変えていただきたい。

そういう人材の存在があると、その場所を将来の人に、将来の生き物に守って行こうという地域の文化になっていくことでしょう。

生態学的好奇心がエコツーリズムという形でビジネスになっています。
それを実施する人をインタープリターと言い、世界中の多くの国で自然をうまく説明するガイド、自然の代弁者という風に呼んでいます。

自然は喋ってくれないのでインタープリターが、自分としてはこの様に見ていますよと代弁してあげることがひとつのビジネスになっていますから、その様な世界をダイビングインストラクターも取り入れ、新しい客層の開発に繋げていただければと思います。

エコツーリズムを展開する上でのエチケット、どんな視点が必要かという物をご紹介します。

準備の段階としては場所の歴史、地史、文化史を理解し、その中で現象を観察してことを理解しましょう。

実際にエコツーリズムのツアーを行う場合、計画的に行い、生態系への影響を回避する。
エコツーリズムによって環境がガラッと変わったり生物がいなくなってしまったりということがない様にしましょう。

資源の保護も重要です。
環境保全が前提でエコツーリズムは成り立っているので、資源の最小限の利用、本当の野生という場面では特に強く求められます。

水や食料、日本にとっては当たり前かもしれませんが、少ないところもあります。
水が少ない所で水を大量に使ってしまっては資源が無くなってしまいます。

山などでは問題になっていますが、ゴミを置いてこない。
富士山もゴミだらけだと。
訪れた人がゴミを捨てて帰ってくる様では本当の意味でのエコツーリズムではないということです。

各地域には地域文化がありますから、よそから訪れた人が勝手なことをすると地元の人が不快な思いをしてしまう。
ダイバーに関係するもので言えば、水着姿で街中を歩かれると不愉快な思いをする人もいます。
その様な点には配慮する必要がありますし、お酒や喫煙も地域から嫌われる原因になってしまいます。
その様なマナーに対する認識も必要です。

生物の保護として獲らない、餌付けしない。
これも当たり前のことです。

エコツーリズムを通して地域の環境保全の支援をする。
それぞれの地域で環境保全の取り組みがあるので、十分な配慮をして貢献しましょう。

エコツーリズムで自然から得られた情報を、お互いに発信しあって、また新たな人材を確保していく、新たなお客様を呼んできてもらう。
そのために観察後の情報発信を積極的に行いましょう。

これらがエコツーリズムのエチケットとして求められています。
当たり前のことばかりですが、この前提で進めてください。

エコツーリズムの考え方でよく言われているのがESD(Education for Sustainable Development)、持続的発展のための教育という意味です。
Developmentは開発行為だけでなく文化的にも経済的にも開発していかなければならない。
ただしその時にはSustainable、継続的にその環境が利用できる形でなければならない。
つまり消費ではなく利用ということです。
これをちゃんと教育しようと国際的に言われています。

その中でエコツーリズムが取り上げられているわけです。

その教育の基本になるのが、自然はどんな恵みを私たちに与えてくれているのか、という分析です。

今までは保全といえば生態的機能をできれば手つかずで残し、人間から遠ざければ良いと考えられていましたが、現代社会においては生態系のサービスを受けながら、何かの恵みを受けたいという期待があるから生態系を保全しようというパワーが生まれるとされています。

生態系サービスとはなんでしょう。
一番わかりやすいのは自然が作ってくれた食べ物ですね。
これは生産活動ですが、いくつかの切り口があります。

どういうものかと言うと、調整サービスというのは生態系を通して環境の定常化、例えば水が山から安定して川に流れ込む。
気候もそうです。
大気の変化を和らげてくれる。
そういった物は生態系によって維持されている。

何も無ければ、岩や水だけなら、今とは全く違う環境になっているはずです。
それは生物にとって好ましい様に調整してくれている。
逆に言えばその状況に合う様に生物が利用しているので、生態系のあり方そのものが生物にとって大事になります。

供給サービスというのは生産です。
一番簡単なのは、人間にとっては食料生産、水産資源ですね。
塩など生物外の物が含まれる場合もあります。

私たちは全ての活動に必要な生産を生態系サービスから得ています。
例えば木も生物ですよね。
酸素も植物が光合成をすることで二酸化炭素を酸素に変えてくれている。

電気、ウランは別としても石油や天然ガスなどの化石燃料。
全て生物活動の歴史的な産物です。

生物が作ってくれたもののサービスを私たちは受けています。
全て生物の活動によって人間が存在していると考えていただきたいです。

文化的サービスは人間活動の基礎資源として生態系を使っているということ。
例えば環境教育や研究そのものが文化として社会にプラス方向に影響するもので、これも生態系があって成り立つものです。

環境保全活動や、それを通した地域の文化、歴史、風土、これらも全て生態系があって初めて成り立つものです。
ということは、それぞれの生態系をうまく使った独自の地域文化が存在する。
場合によってはそれが信仰に変わるなど、歴史的な価値があるものに変化する場合もあります。

それも生態系サービスとして私たちが利用できる資源として使っていかなければなりません。
あるいは価値が生まれる様に活動しなければいけない。

この様な切り口があることを知ったうえでエコツーリズムをどう使うか、考えてみていただければと思います。